フリーランスの美容師のトラブルと対処法
2024年04月5日
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法科大学院を卒業後、機械メーカーの法務部に従事する傍らで法律系記事を中心にWebライターとして活動。
会社法や交通事故に関する内容を中心に複数の法律事務所などのWebサイト上のコンテンツを執筆。
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美容師の働き方にはサロンや美容室の正社員として働く働き方以外に、フリーランスとしてサロンと契約を結び働くという働き方も一般的です。
こうしたフリーランスの場合には、収入は歩合制となるため収入が不安定になるというリスクはありますが、勤務時間をある程度事由に決められる他、機材などをサロンのものを使うことができるため自由な働き方ができるというメリットがあるため、独立を目指す美容師に人気の働き方です。
こうしたフリーランスでの働き方はメリットがある反面、トラブルになった際には自分自身で解決する必要があります。しかし、どういったトラブルやリスクがあるのか疑問を持たれる方も少なくないでしょう。そこで、本記事ではフリーランスの美容師が巻き込まれやすいトラブルや対処法について解説します。
記事の要約
- フリーランスの美容師は収入の不安定さや自由な働き方が可能であるが、様々なトラブルに自己解決が求められる。
- トラブルはお客様との間のクレームや、サロンとの顧客情報の持ち出し等の問題があり、訴訟リスクも伴う。
- トラブルへの対処法としては、希望のヒアリング、承諾書の取得、契約書の締結、弁護士保険への加入が挙げられる。
- フリーランスとして安心して働くためには、トラブルの予防とリスクヘッジが重要である。
フリーランスの美容師とトラブル
フリーランスの美容師は様々なトラブルに巻き込まれる可能性があります。そこで、以下ではフリーランスの美容師が巻き込まれやすいトラブルについて解説します。
お客様と美容師との間のトラブル
美容師に起こりやすいトラブルの一つとしてお客様との間でのトラブルが挙げられます。
依頼したスタイルと違うとクレームを付けられる
よくあるトラブルとして、お客様から依頼されたスタイルと違う仕上がりになってしまいクレームへと発展するというケースです。
具体的には、お任せと言われたので、似合いそうな無難なスタイルにした結果、イメージと違うとクレームを言われてしまうケースなどが該当します。その他にも、髪を切りすぎてしまうケースや髪の傷んでいるお客様に説明したにもかかわらず、納得されなかったため施術したら予想通り髪が傷んでしまいクレームに発展したなど様々なケースが考えられます。
実際に裁判になった事例としては、東京地方裁判所平成17年11月16日判決があります。この事件では、注文したデザインと異なるカットがされ、カラーリングで頭皮にただれが生じてしまったことなどを理由に600万円の損害賠償請求がなされています。
この裁判では顧客の希望を十分に確認していなかったため、義務違反が認められるとして、約24万円の支払い義務を美容室側に課しています。
このように美容業界はクレームのリスクが常につきまとうため訴訟となるリスクも決して低くは無いということはフリーランスの美容師として活動する上では押さえておかなければならないといえるでしょう。
施術に失敗してしまいクレームを付けられる
髪を切りすぎてしまったり、ストレートパーマの失敗で毛が縮れた状態になってしまったなど様々な失敗が考えられます。
実際に裁判になった事例としては、パーマをかけて失敗したと感じた女性がストレートパーマをかけたところ、毛先から25センチ以上もの長さにわたって髪がチリチリになってしまい、髪を切らざる得なくなってしまったという事例があります。
この事例では女性は結婚式をひかえており、施術の失敗によって結婚式が台無しになった事を理由に約490万円の損害賠償請求をしています。
この他にもコールドパーマが原因で皮膚炎や耳鳴りに悩まされていることを理由に損害賠償請求をした事例では400万円もの支払いが命じられています。
このように施術の失敗は訴訟リスクになる可能性が高く、賠償額も高額になる可能性があることからフリーランスの美容師にとっては大きなリスクの1つと言えるでしょう。
悪質なクレーム
前述のような理由のあるクレーム以外にもお客様から理不尽なクレームを付けられる可能性もゼロではありません。美容室はイメージを大事にする傾向にあるため、このような理由の無いクレームであっても返金や慰謝料の請求などに応じてしまうケースは少なくありません。しかし、安易に返金等に応じているとつけこまれてしまう可能性もあるため、全てのクレームに返金などで応じるのは考え物です。
サロンや美容院と美容師との間のトラブル
お客様とのトラブル以外にも美容師はお店との間でもトラブルを抱えがちです。お店と美容師のトラブルとしては以下の様なものがあります。
顧客情報の持ち出し
独立の際に以前のお店の顧客情報を持ち出した、または流用したというトラブルはよく見かけます。
美容師が独立するときに一番不安なのは集客ができるかどうかという点です。そのため、自分についていたお客様や美容院に通っていたその他のお客様に声をかけたり、営業活動をしてしまうという心理になり、実際にそれを実行してしまうのです。
しかし、美容院のオーナーからすると顧客はそれまでの営業活動の結果得られたサロンの重要な財産であると考えるでしょう。
そのため、独立時にそれまでの顧客に営業活動を行ったり連絡を取ったりすると、顧客情報の流用に当たるとしてオーナーから訴訟を提起される可能性があるのです。
実際にこうしたケースに備えて、独立時に独立先を教える事や宣伝を行う事を禁止する誓約書の提出を求められるサロンや美容院も少なくありません。こうした誓約書を提出している場合には、営業活動を行ったことが契約違反になると主張され、裁判になってしまうというケースが想定されます。
独立時にこのような訴訟が起きてしまった場合、開業費用と訴訟費用が重なってしまい、キャッシュフローが回らなくなってしまい廃業に追い込まれてしまう可能性も考えられます。
罰金などのペナルティを科される
サロンや美容院によっては遅刻や悪い口コミを書かれた場合に罰金などのペナルティを科される場合もあります。
遅刻は比較的争いがありませんが、悪い口コミの場合、内容が適切で無い場合や虚偽の場合もあり得るためトラブルの原因の1つとなります。
独立時に勤め先のサロンの売上が減少したケース
独立時に注意したいトラブルの1つとして、独立時に自身の顧客が流れてしまうことによって、売上が減少した事を理由に損害賠償請求をされるといったケースがあります。
特に前述のような顧客情報の流用が疑われる場合には、大きな損害賠償請求にもつながりかねません。
独立後の店舗を独立前の店舗の近くに構える場合には特にトラブルになりやすい傾向にあります。ただし、基本的には独立する側には営業の自由があるため、どの場所で独立開業するのも自由です。しかし、顧客情報を流用するなどの行為があった場合には損害賠償請求が認められる可能性がある点には注意が必要です。
面貸しの利用自体が違法となるケース
面貸しとは、お客様の入っていない時間や余っている席をサロンや美容院から美容師がレンタルして施術する方法のことをいいます。フリーランスの美容師の多くはこの面貸しというシステムを利用してサロンと業務委託契約を結び働いています。
この面貸しも特定の条件下では違法な営業となる可能性があります。その例としては、
- ①美容師免許を持たないで面貸しを利用する場合
- ②保健所に必要書類を提出していない場合
が挙げられます。
美容師免許を持たないで面貸しを行っている場合には、サロンや美容院自体が営業停止になる可能性があります。
また、面貸しをする際には保健所に美容師免許などを提出する必要がありますが、こうした必要書類の提出がなされていないと面貸しが違法となってしまうリスクがあります。
顧客情報の持ち出しと不正競争防止法
顧客情報の持ち出しは損害賠償請求の対象となるだけでは無く、不正競争防止法という法律に違反する可能性がある点にも注意が必要です。
不正競争防止法は「営業秘密」を不正な方法で取得・第三者への開示・利用といった行為を禁止しています。
多くのサロンや美容院では顧客のデータを顧客カードやデータなどで保管していると思いますが、不正競争防止法との関係ではこうした顧客情報が「営業秘密」に該当するか否かが問題となります。
不正競争防止法における「営業秘密」とは、
- ①その情報が秘密として厳重に管理されていること(秘密管理性)
- ②その企業にとって有用な情報であること(有用性)
- ③他に知られていない情報である事(非公知性)
の3つの要件を満たした場合に営業秘密として同法の保護を受けることができます。逆にこれらの要件を満たさない場合には営業秘密には該当せず不正競争防止法の保護を受けることができない結果となります。
そのため、例えば顧客カードがカウンター裏に輪ゴムで止められて保管されており、誰でも見ようと思えば見られる状態であった場合には先ほどの3つの要件のうち秘密管理性が欠けるため営業秘密には該当しないと判断される可能性があります。
他方で、顧客情報をパソコンで管理しており、データへのアクセスにはパスワードが必要であり、そのパスワードもごく一部の者しか知らない状態で管理されていたという事であれば、秘密管理性が認められる可能性は十分に考えられるでしょう。
ただし、注意したいのは営業秘密に該当しない場合でも顧客情報を持ち出して営業活動を行った結果、以前のサロンや美容院の売り上げが低下した場合には不法行為を理由に損害賠償請求をされる可能性があります。
営業秘密に該当しないから持ち出しても良いという訳では無く、より強い保護を与えられる可能性があるという点は押えておきましょう。
トラブルへの対処法
では、こうしたトラブルにはどのように対処すれば良いでしょうか。ここからは対処法について解説します。
お客様の希望を適切にヒアリングする
お客様とのトラブルには施術の失敗や理由の無いクレームなど様々なものがありますが、お客様の希望を適切にヒアリングできていれば避けられたトラブルも多く見られます。
お客様の要望を全て汲むのは困難な場合が少なくないでしょうが、まずは要望を適切に聞き取った上で、どのようなスタイルにしていくのかお客様とコンセンサスを形成しつつ施術することでトラブルを避けることが可能になります。
パーマやカラーなどの施術の前に承諾書などをとる
パーマやカラーといった施術は髪にダメージを与えるものであり、髪の毛の状態によっては施術が悪影響を及ぼすケースは十分考えられます。
こうしたケースでは事前にしっかりと説明を行い、施術を避ける様に説得することが妥当ですが、納得してもらえず施術せざる得なくなる結果になることも少なくありません。
こうした場合に、施術の結果髪が傷んでしまったというクレームを避けるために承諾書や同意書といった書面に署名を求めておき、後のトラブルに備えるという方法が考えられます。こうした同意書や承諾書の内容については法的な観点から弁護士などに確認をしておいてもらうとより安心して使用することができます。
契約書を締結する
お店とのトラブルの多くは契約の条件が不明確になっていることに由来しているケースが多いです。例えば独立時の営業活動はどの程度まで許されるのか、それとも一切禁止するのかといった点が不明確なままになっていると、独立時に顧客情報を流用したのでは無いかといった問題などが起きてしまいます。
そこで、契約書を締結しておき、あらかじめ条件を明確化しておくことでいざというときのトラブルに備えることが可能となります。
弁護士保険に加入する
本記事でもご紹介したように、美容業界はクレームが多い事から一歩踏み出すと法的な紛争に発展しがちです。こうした法的トラブルを解決するためには弁護士が必要不可欠となりますが、気になるのは費用です。
そこで弁護士保険に加入しておくことで、弁護士に相談したり依頼したりする際の費用を補償してもらうことが可能です。
特にフリーランスの場合にはお店を頼りにすることもできないので、いざというときに弁護士を頼りにできるというのは安心して仕事を行う上で重要です。
弁護士保険は補償内容や保険料は契約内容によって異なりますが、安価なものは月額500円程度のものから様々なものがあります。
いざというときに費用の心配をせずに済むように弁護士保険へ加入しておくことを検討されてみてはいかがでしょうか。
まとめ
フリーランスの美容師は自由な働き方ができる反面、様々なトラブルに遭遇する可能性があり、そのトラブルも一歩間違えると法的な紛争に発展してしまうリスクがある点で注意が必要な働き方と言えるでしょう。
万が一、法的な紛争に発展してしまった場合に安心して弁護士へ相談・依頼ができるように弁護士保険へ加入しておき、リスクヘッジをしておけば安心して仕事に集中することができるでしょう。
美容師やその他フリーランスの方へ、お客様とのトラブルに備えて弁護士保険加入がおすすめです。「弁護士保険比較表」はこちら。
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