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器物破損をされた場合示談にするべき?

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器物破損をされた場合示談にするべき?

この記事を書いた人

涼
法科大学院を卒業後、機械メーカーの法務部に従事する傍らで法律系記事を中心にWebライターとして活動。
会社法や交通事故に関する内容を中心に複数の法律事務所などのWebサイト上のコンテンツを執筆。

自身が所有する物を壊されてしまう、器物損壊の被害を受けた場合、加害者は被害者と示談を行おうとする場合が多く見られます。しかし、こうした示談に応じるべきなのか、また示談金はどのくらいが相場なのかといった点について分からない方は多くいらっしゃるでしょう。
そこで、本記事では器物損壊の被害を受けた場合に示談にすべきか、示談交渉に応じるべきかについて解説します。

記事の要約

  • 器物損壊罪は他人の物を損壊・傷害した行為で、3年以下の懲役または30万円以下の罰金。
  • 加害者は示談交渉を望み、不起訴率を高めるため告訴の取り消しを求める。
  • 示談交渉は早期解決が可能で、慰謝料を含めた示談金が受け取れる可能性も。
  • 弁護士経由の示談交渉が多く、被害者側も弁護士への依頼が推奨される。

器物損壊罪とは

そもそもどのような行為が器物損壊罪に該当するのでしょうか。ここでは器物損壊罪について解説します。

器物損壊と器物破損の違い

器物損壊罪について器物破損と呼ぶ人もいますが、法的には正しい名称は器物損壊であり、器物破損ではありません。両者は意味が異なるため注意しましょう。
器物損壊が正しい名称のため、告訴状や判決書など公的な文書には全て器物損壊と記載されます。

どのような行為が器物損壊罪に当たる?

器物損壊罪について刑法では以下のように定められています。

(器物損壊等)
”第二百六十一条 前三条に規定するもののほか、他人の物を損壊し、又は傷害した者は、三年以下の懲役又は三十万円以下の罰金若しくは科料に処する。”

したがって、器物損壊罪に当たる行為とは「他人の物」を「損壊」または「傷害」する行為の事をいいます。
「損壊」とは動物以外の物の毀棄をいい、「傷害」とは動物に対する毀棄のことをいいます。そして毀棄とは、物を物質的に破壊する行為だけでなく、その物の本来の効用を喪失させる行為も含みます。

したがって、例えば食器を地面にたたきつけて割る行為は、破壊行為として当然に毀棄行為であり「損壊」に該当しますが、それ以外にも食器に放尿するような行為も食器としての利用ができなくなってしまう点で本来の効用を喪失させる行為として毀棄行為に当たり、「損壊」に該当するのです。
この他に「損壊」に該当する行為の例としては、スマートフォンを床に落として破損させる行為や、壁に落書きをする行為、窓ガラスを割る行為や、他人の財布を隠す行為、女性のバッグに精液をかける行為なども損壊に該当し、器物損壊罪による処罰の可能性があります。
また、前述の通り、動物を傷害させる行為も器物損壊罪における「傷害」に該当します。したがって、他人が飼っているペットをケガさせたり、傷つけた場合には器物損壊罪が成立する可能性があります。

器物損壊罪に当たらない場合

器物損壊罪の成立には故意、つまり物を壊す意思を持って壊したことが必要になります。そのため、うっかりや不注意などで物を壊してしまった場合には器物損壊罪は成立しません。ただし、酔っていて記憶を無くしていた場合でも、壊す時点で壊す意思を持って物を壊してしまった場合には器物損壊が成立しえます。そのため、酔って記憶が無いので器物損壊罪が成立しないということにはならない点には注意しましょう。

器物損壊罪の罰則は?

器物損壊罪の罰則は3年以下の懲役又は30万円以下の罰金若しくは科料です。
懲役とは刑務所に収監され、刑務作業の義務が課される刑罰です。そのため、器物損壊罪で有罪になると1月以上、3年以下の間刑務所へ収容される可能性があることになります。ただし、こうした懲役刑については執行猶予といって刑の執行が猶予される可能性もあるため、必ずしも有罪になったからと言って刑務所へ入らないといけないという訳ではありません。
罰金とは強制的に金銭の支払いをさせるものです。器物損壊罪の場合、罰金は1万円以上30万円以下の範囲で金銭の徴収がされる可能性があります。

示談したら罰金の支払い義務は無くなる?

多くの方が勘違いしているポイントとして示談交渉をし、示談金を受け取ったら罰金の支払い義務は無くなると考えている方が多いように思われます。しかし、刑事事件において示談金の支払いと罰金の支払いは全く別物です。そのため、示談交渉に応じても必ずしも罰金の支払い義務がなくなるわけではありません。

加害者が示談交渉をしたがる理由

示談金を支払っても罰金の支払い義務が必ずしも無くなる訳ではないのですが、それでも器物損壊の事件においては加害者は被害者と示談交渉を望む場合が多く見られます。そこで、こうした加害者がなぜ示談交渉をしたがるのかについて解説します。

不起訴になる可能性を高めるため

不起訴とは検察官の判断で事件終了とする処分のことをいい、この場合には刑事手続きはそこで打ち切りとなるため、有罪となることはなく前科もつきません。
器物損壊事件を起こした場合でも初犯で事件の悪質性が低く、示談を締結できている場合には不起訴になる可能性は非常に高くなります。
そのため、加害者はこうした不起訴処分を得るために被害者と連絡を取り示談交渉を行おうとするのです。

告訴の取り消しをしてもらうため

器物損壊罪は親告罪と呼ばれる犯罪です。親告罪とは、被害者が告訴しないと起訴することができない犯罪の事をいいます。そのため、一度告訴がなされても後にそれが取り消されれば起訴されないことになります。
そこで、加害者は示談交渉に際して示談金を支払う代わりに告訴を取り消すように求めてきます。
被害者としてはこうした告訴取り消しをする代わりに示談金の額を上げてもらうといった交渉が行われるのが通常です。

逮捕を避けるため

器物損壊罪が行われた場合で罪証隠滅や逃亡のおそれがあるケースでは器物損壊罪を理由に逮捕される可能性があります。
逮捕されると最大で20日間勾留される可能性があります。しかし、こうした長期間の身柄拘束は加害者の社会生活に大きな影響を及ぼします。そのため、加害者としては逮捕を避けたいと考えるのが通常です。
そこで、示談交渉を行い、告訴を取り消してもらえれば、事件はそれで終了となるため逮捕される可能性は一気に下がります。
こうした逮捕を避けるという意味でも示談交渉は用いられているのです。

示談交渉に応じるメリット

では、被害者にとって示談交渉に応じるメリットはどのような点にあるのでしょうか。ここからは示談交渉に応じるメリットについて解説します。

早期の解決ができる

刑事裁判や民事裁判による解決を図ろうとするとどうしても期間がかかってしまうため問題の解決までに時間を要することになってしまいます。他方で示談であれば、加害者も身柄拘束や刑事訴追を避けるために早期に解決を図ろうとするため、問題の早期解決が期待できます。

示談金を受け取ることができる

示談交渉においては、示談金の支払いを受ける代わりに告訴を取り消してほしいといった内容で交渉が行われます。そのため、示談金には壊したものの価値にある程度プラスαの金額を乗せた額が提示されるケースも少なくありません。こうした示談金を受け取ることができるのは示談交渉に応じるメリットの一つといえるでしょう。

ケースによっては慰謝料を受け取ることができる

後述するように器物損壊の示談金は壊したものの価値が原則となっており慰謝料の請求は認められないのが原則です。しかし、かわいがっていたペットが死亡してしまった場合などのケースでは精神的苦痛が発生するため、それに対して慰謝料が認められるケースもあります。

示談交渉に応じるデメリット

では、示談交渉に応じる場合デメリットは何かあるのでしょうか。この点については示談交渉では示談金の支払いと引き換えに告訴を取り消すように求められる場合がほとんどです。そのため、示談交渉に応じると、告訴が取り消されるため器物損壊罪として処罰されないことになってしまいます。
自分が大切にしていた物を壊されてショックを受けており、処罰してほしいという気持ちが強い場合には、こうした気持ちを解消することが難しくなってしまいます。こうした点は示談交渉に応じるデメリットといえるでしょう。
また、示談交渉は弁護士を通じて行われるケースがほとんどです。そのため交渉に慣れた弁護士と専門的な知識を持たない被害者との間で交渉が行われることになります。こうしたケースでは弁護士のいうがままになってしまうケースも少なくないため、示談交渉は不利になりがちです。そのため、相場よりも不利な条件で示談交渉に応じてしまうリスクがあるという点もデメリットといえるでしょう。

示談金の相場

では、加害者が示談を望むことが一般的とはいえ、示談金の相場はどのくらいなのか気になる方も多いでしょう。そこで、示談金の相場について解説します。

示談金の額は壊した物の相場の価格による

器物損壊における示談金とは、基本的に壊した物に対する損害賠償として行われます。そのため、示談金の額は壊してしまった物の価値に応じて増減します。また行為が悪質といった理由で被害の程度が大きい場合や精神的苦痛が伴う場合には示談のハードルがその分上がるため、示談金の額も上がる傾向にあります。

慰謝料は請求できる?

壊された物の価値分は示談金として請求できるとして、慰謝料は請求できないのかと考える方も多いでしょう。器物損壊においては請求できるのは原則としてはその物の価値分となるため、慰謝料は請求できないのが原則です。
ただし、ペットを傷つけられてしまった場合などのように精神的苦痛の程度が重い場合には精神的苦痛に対する慰謝料の請求も認められる場合があります。
示談交渉は当事者間の交渉によって決められるため、こうした慰謝料を含めることができるかどうかはケースバイケースとなります。
精神的苦痛に対する慰謝料も併せて請求したい場合には、事前に弁護士などの専門家へ相談しておくと良いでしょう。

示談交渉は弁護士へ依頼する方が良い

加害者との示談交渉において加害者側は弁護士が示談交渉を行う場合がほとんどです。そのため、被害者は弁護士と交渉を行わなければならないことになります。
しかし、こうした場合には交渉力や専門知識に差があるため、加害者に有利な示談交渉になりがちです。そのため、被害者側も弁護士へ交渉を依頼し、一方的な示談とならないように注意する必要があります。

器物損壊と逮捕

器物損壊を行った場合でも逮捕される可能性があることは前述のとおりですが、この場合には手続きはどのように進むのでしょうか。ここでは逮捕後の手続について解説します。

逮捕

逮捕されるとまずは警察署内の留置所にて身柄を拘束されます。取り調べの結果、身体拘束の必要性がないと判断された場合や、被害者の被害届が取り下げられた場合には身体拘束から解放され、釈放されます。
こういった事情の無い場合には48時間以内に検察官に送致され、検事の取り調べを受けることになります。このまま手続きが進んでいくと最大で20日間拘束される勾留がなされる可能性もあります。
そのため、多くの加害者はこの時点から弁護士に依頼し、被害者と示談交渉を行おうと進めてきます。

送検

検察へ身柄が送られると、検察官は勾留と呼ばれるさらに長期間の身体拘束を行うかそれとも釈放するかの判断を行います。多くのケースでは勾留に進んでいくことになるため、裁判官に勾留請求が行われることになります。
この勾留請求は検察への送致から24時間以内に行われます。

勾留

検察官の請求を受け裁判官が勾留を必要とするか決定します。勾留期間は原則として10日間ですが、最大でさらに10日間延長することができます。この間に警察や検察は起訴するかどうかを判断するために必要な捜査を行います。

起訴・不起訴

検察官は勾留期間中の捜査内容を元に起訴の必要性を判断します。起訴する必要性がないと判断した場合には不起訴となり釈放されます。器物損壊の場合の不起訴率は60%程度と言われているため、比較的高確率で不起訴となることが期待できます。

刑事裁判

検察官が起訴を行うと刑事裁判手続きに移行します。起訴された場合の有罪率は99.9%と非常に高いため、刑事裁判に進むとほぼ有罪となり前科がついてしまうことになります。

まとめ

器物損壊の被害を受けた場合、多くの場合には加害者の弁護士から示談交渉を受けることになりますが、こうした交渉を一般の方が行うのは難しく、相手方の弁護士のいうがままになってしまうケースは少なくありません。
他方で弁護士に依頼するとなると費用が気になる方も多いでしょう、弁護士保険に加入していると、万が一器物損壊の被害を受けた場合には弁護士への相談料等が保険により補償されるため安心して弁護士へ相談を行うことができます。
器物損壊は誰にでも起こりうる犯罪被害の一つであり、比較的発生頻度も高い犯罪です。
万が一の事態に備えて弁護士保険への加入を検討してみてはいかがでしょうか。

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